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    • 新曲“OVERNIGHT”がリリースされました。『AlterGeist0000』のツアーが4月に終了し、そこから非常に早いスパンで次フェーズのキックオフとなる新しい曲が出てきたわけですが、だからこそ、まずはオーラルの総決算でもあり未来への意志表明でもあった『AlterGeist0000』のツアーから振り返っていきたいと思います。ツアーファイナルの横浜アリーナ公演を完遂して3ヵ月経ちますが、今の拓也くんは、あのツアーで得られたものをどういうふうに感じていますか。
    • 山中拓也「単純に2019年以降はアリーナ公演をやれていなかったので、6年越しのアリーナツアーやったんですよね。コロナ禍の影響で2020年のアリーナツアーをキャンセルしたこともあったし、その後はバンドシーンの復興に舵を切って、ライヴハウスを活動の軸にしていましたし。そういう活動を長らくしていたので、自分のメンタル的にはどんどん潜っていく感があったんですよ。2019年までの活動でアリーナ公演をやれるようになったというのは、自分達を押し上げるための動きやったわけですよ。そこからコロナ禍を経て、自分達を押し上げるのではなく、シーンを押し上げる活動をしたいと思うようになったんですよね。 これはMCでもよく言ってたことですけど、どれだけたくさんの人がフェスに集まったとて俺らのシーンはお茶の間には届いていないし、そもそもお茶の間に届いちゃいけないものがロックなのかもしれないなって感じてたんですよ。ただ、そういうシーンの在り方が正義と言ってしまってもいいんですけど、俺はロックをもっと居心地のいい場所にすべきやなと思っていたので、お茶の間に届いていなかったシーンを広めて押し上げたいっていう気持ちが強くなっていったんですよね。なので、まずはライヴハウスを大切にして、楽曲にもライヴハウスの空気感を反映していきたいなっていうのが『AlterGeist0000』の根幹やったんです。 で、そのアルバムの楽曲を持ってライヴハウスを回ったんですけど、去年のPARASITE DEJAVUの一件があってから初めてのツアーやったんで、パラデジャの後にライヴ活動を休止した3ヵ月間待っててくれてありがとうっていう気持ちを伝えるためのツアーにもしたかったんです。ライヴ活動を止めていた3ヵ月の間は周囲のバンドにもたくさん助けられたし、早く帰ってこいよって言ってくれる仲間との関係性を再認識できたことによって、改めて自分はこのシーンにいるべきなんやと思わせてもらったんですよね。もっとこのシーンの熱さを伝えていきたいと思ったし、『AlterGeist0000』のライヴハウスツアーに来てくれたお客さんのリアクションを見たり、パラデジャで怪我をしてしまった人の経過を知っていく中で、やっぱり俺らは『待たせてごめんね』っていうよりも人を引っ張っていくライヴをすべきやと思えるようになっていって。 『AlterGeist0000』を作った時に思い描いていたものをライヴハウスツアーで実現できたし、それ以上の熱い想いをお客さんからもらったなあと思えて。そういう手応えを持った上でアリーナツアーに臨んだわけですけど、ライヴハウスの熱量を楽曲に注ぎ込んだのが『AlterGeist0000』やったんで、それをアリーナでどう表現しようかな?っていうのが第一にあったんです。でも実際にアリーナでやってみた時に、ロックシーンやライヴハウスシーンの真ん中で鳴らそうと思っていた楽曲も、自然とアリーナにフィットするんやと思えたんですよね。 自然体でそのままアリーナに通用する楽曲達なんやって気づかされた感じ。アリーナでは普段から周りにいてくれる仲間達がスタッフとして入ってくれていたんですけど、みんなが口を揃えて『オーラルはアリーナも似合うよ』って言ってくれたことで自信がついたのも大きかったですし、何より今の自然体でアリーナができたというのが何よりも手応えになったんです。今後もアリーナをやるべきやなと思えましたし、THE ORAL CIGARETTESでしか作れないアリーナライヴの空気感があるのなら、次がスタジアムになったとしてもドームになったとしても、何もブレることはないなと確信できました」
    • 「アリーナライヴでもスタンディングエリアは作り続けたい」という旨のことをMCでもおっしゃっていましたが、このままのオーラルでどこへでも行けるようにするんだという宣言として解釈したんですよ。どんなに大きな会場だとしても、観客とバンドの近さ、衝動のデカさで突破していくんだっていう。実際に物理的な距離を心の近さで突破していくようなライヴだったし、そこが素晴らしかったんですよね。で、何故それが生まれたのかと考えたら、言うまでもなく『AlterGeist0000』の楽曲があったからだと思うし、ただの山中拓也、ただのあきらかにあきら、ただの鈴木重伸、ただの中西雅哉が表現された楽曲達だったからこそ最高に近いライヴになっていた気がするんです。
    • 山中「どこでも闘えるなっていうのは、ジャンル的な意味でも感じられたことで。たとえばヴィジュアル系のイベントに呼ばれたり、ラウドのバンドでもないのにラウドのバンドが多いところにも呼ばれたり。何故そうなるのかって、純粋にいろんな音楽が好きで育って来た人間だからやと思うんですよ。そうやっていろんな音楽に揉まれてきたからこそ音楽の垣根を作らず、人と人の繋がりで壁を突破したいと思ってやってきたのがTHE ORAL CIGARETTESなんです。ただ、垣根を突破するには、まず自分達が売れないといけないじゃないですか。ライヴハウスからアリーナを股にかけるような活動の規模感、ジャンルを跨げるだけの規模感が必要というか。そういう意味でも、久々にアリーナ公演をやれたのは大きいことで。 次はスタジアムでのライヴを目標のひとつに掲げていて、そこに辿り着くまでにどう闘っていくべきかは考えなあかんと思ってるんですけど、今回のアリーナツアーは今までで一番伸び伸びとやれて。これまでのアリーナライヴは『こうしなきゃ』とか『こう感じて帰ってもらわなきゃ』とか、いろんな義務と責任を自分に課してる感じがあったんです。でも今回はそうじゃなかった。堅苦しいことを考えずライヴハウスのテンションでステージに上がれたのがよかったんですよね。つまり自然体でアリーナライヴをできたのが俺らの成長だったんでしょうし、だからこそ、このままでどこにでも行ける感じになったんでしょうね。なんなら、やっとアリーナでできるバンドになったなって。これだけ飾らずにアリーナライヴをできたことが、バンドにとっての大きなステップアップでした」
    • 今回の“OVERNIGHT”を聴いても、『AlterGeist0000』のオーラル刷新モードがはっきり伝わってくると感じました。オーラルの持っているダークな面、“狂乱 Hey Kids!!”のようなアンセミックな歌、グルーヴで踊らせるアンサンブルを今のモードで全部盛りしたらどうなるんだろう?っていう曲のような気がして。今話してくれた『AlterGeist0000』のタームの中で生まれた楽曲なのか、これはまた別のところから作ったものなのか、どういうところから出てきた楽曲なのかを教えてもらえますか。
    • 山中「TVアニメの『桃源暗鬼』に提供する楽曲やったんで、実は『AlterGeist0000』の制作に入る前に作っていたんですよ。ただ、『AlterGeist0000』のテンション感を一番最初に持ってきた楽曲ではあって。『AlterGeist0000』のツアーが終わった後のシングル曲になるのもわかっていたので、『AlterGeist0000』で示すヴィジョンがあった上で、改めての意思表示みたいなところが入っている気がするんですよね。 で、オーラル全部盛りみたいな展開になったのは、『AlterGeist0000』を作る前の時期は音楽的な構想が溢れまくっていたからやと思っていて。去年の2月くらいかな。割と早い時期に作っていたから、“DUNK feat. Masato(coldrain)”とかが出てきたタームの1曲っていう感覚なんです。で、たとえばこの曲がアニメのタイアップじゃなかったら、『AlterGeist0000』の次のアルバムを見据えて頭のベースリフだけでどれだけ回せるかを試してた気がするんですよ」
    • ミニマルなビートとベースのループが際立つように引き算して、もっとダンスミュージックの感覚が前に出ていた可能性がある。
    • 山中「そう、引き算の発想が最初はあったんですよ。でもこの曲のサビは、おっしゃる通り“狂乱 Hey Kids!!”の存在やったりアニメの存在やったりが関与して出てきたもので。根本的には『ビートとベースのリフだけで聴かせられる曲にしたら面白いな』っていうところから出発した曲ですね」
    • ミニマルなビートから始まり、四つを打つセクションもあり、サビで一気に疾走する展開ですけど、リズムチェンジの接着剤になっているのは「踊れる」という感覚で。場面が転換するところにインサートされるスクラッチ音も効いているし、通底しているのは一貫してダンサブルなイメージですよね。
    • 山中「俺にとってもけっこう新鮮な曲なんですよ。アニメを全部見終わってから風呂に入っている時に、頭のビートの感じが思い浮かんで。でもその時に鳴ってたのは、完全にバンドサウンドじゃなかったんですよ。自分が遊びに行ってるクラブの感じだったり、そこで行われてるパーティーの感じだったりが流れてきて、その上でどういう音が流れていて欲しいかっていう発想だったんですよね。で、その音に対して自分じゃない声がイメージとして出てきたところもあって」
    • 自分じゃない声っていうのは?
    • 山中「本当は、女性的な声がイメージとして出てきてたんですよ。俺がお客さん目線で聴きたい曲みたいな感じで出てきたというか、オーラルではない楽曲として流れてきた音が“OVERNIGHT”の着想源になっていて。ただ、自分のものではない楽曲として思い描いたものと、『桃源暗鬼』のオープニングのイメージが凄くマッチしていて。その時に気づいたのが、アニメのオープニング曲はこう作るのが正解なのかもっていうことだったんですよ。 アニメに書き下ろすんやったら映像との相乗効果がある曲にするべきやし、それをフル無視しても『いい曲』にはならない気がして。アニメと自分達らしさを共存させないと意味がないと思うし、アニメの作品性を客観視して、音楽としても超客観的に作ったものを俺らが鳴らすから意味があるっていう感じにしたいんですよね。『ノラガミ』以降は特にいろんなアニメを観るようになったんですけど、各作品のオープニングテーマに対して『俺やったらこうする』っていうイメージが湧くわけですよ。主観的でありつつ客観的でもある視点で、アニメのオープニング映像を観るクセがある。それを今回、オーラルとしてやってみた気がするんですよ」
    • どちらかと言えば、それはプロデューサー視点ですよね。
    • 山中「ああ、そういう感じかも。なので『桃源暗鬼』を見終わった後にはオープニング映像の世界観と、ミニマルなビートを軸にした楽曲のイメージができていて。その画に対してどんな音をハメていくのかが大事なんやろうなっていう感じで作っていったのが“OVERNIGHT”でした。一番最初にオクターブ上とオクターブ下の声を歪ませて入れてるのも、最初の楽曲イメージの名残で。最初に出てきたのは俺が地声で歌っているイメージではなかったから、わざとひとつ高く歌ったものと低く歌ったものを被せてるんですよね。 で、そこからスタートして四つを打つセクションに入るところも、そもそもはキックだけでよかったんですよ。あくまで最初のイメージを生かしてカッコいい曲として成り立たせるには、シンプルなキックで踊らせるだけで十分やった。ただ、それをオーラルに引き戻した時に、それは違うって思って。そこは毎回格闘するところなんですけど、オーラルとしてもピュアであり、山中拓也個人としてもピュアな楽曲であるためにはどうしたらいいのか?っていうのは常々考えるんです。誰かに楽曲を提供するものとか、仮に俺がソロでやる楽曲だったら個人の趣味全開でいいのかもしれないんですけど、やっぱりオーラルとして鳴らす曲なので。シゲのギターとあきらのベース、まさやんのドラムを最大限活かすにはどうしたらいいのかっていう発想がそこに乗ってくるんです。そういう流れがあったから、ダンサブルな感覚をキープしつつ、四つを打つセクションができていきました」
    • いわゆる四つ打ちロックとは違う意味での四つ打ちですよね。フロアで流れているダンスミュージックの発想をベースにしているからこそのグルーヴが聴こえてくるのがいいなと思う。
    • 山中「そうですね。最初に自分から出てきた超ミニマルなダンスミュージックを基にしているから作れた曲やと思います。だから新鮮な感じですね」
    • 自分から出てくる楽曲のイメージをオーラルに接着させてバンドサウンドにしていくっていう回路は、最近生まれてきたものなんですか。昔からそうだったんですか。
    • 山中「どうですかねえ……むしろ20代の頃のほうが、一個人としての自分が音楽の中に存在してなかった気がするんですよね。どちらかと言えば、THE ORAL CIGARETTESとしての自分と、お客さんの前に立つ自分っていう二軸で考えていたと思う。オーラルとしてこういう曲を作りたいっていう気持ちと、お客さんを前にして演奏しているイメージとが自分の中にあった。でも、それこそ『AlterGeist0000』以降のモードですけど、俺の聴く音楽の幅が一気に広がったのが大きくて。 コロナ禍以降は特に、お客さんの音楽偏差値みたいなものを気にして作る必要ないやん、誰かの目を気にして作る必要ないやんっていう気持ちが強くなったんですよね。その中で、お客さんの前に立って何を見せるべきなのかっていう自分が消えたんですよ。そこから、オーラルとしての自分と一個人としての自分っていう二軸に変化してきたんやと思います。で、その二軸にはわかりやすいスイッチがあって、俺の場合はパソコンの前でギター担いだ瞬間に『THE ORAL CIGARETTESの山中拓也』になるんですよ(笑)」
    • はははははは。凄いな。
    • 山中「ロックバンドらしさと言われる楽器を担いで作れば、それはオーラルの楽曲になるんです。逆に、辻村有記くんとやってるJOGOっていう作曲ユニットでは、ギターを持って作らないんですよ。なので、わかりやすくギターがスイッチになって、一個人としての作曲とオーラルとしての作曲は区分されていて。今回の“OVERNIGHT”で言えば、風呂に入った時に頭のビートが流れてきて、風呂から上がった後にギターを担いで『他のセクションはどうしようかな』って考えて。それをくっつけていくっていう感じでした。その時ももちろん、『桃源暗鬼』の映像のイメージが頭の中に流れてました」
    • 『桃源暗鬼』は、桃太郎に攻め込まれる鬼側の姿を描いている新しいダークヒーロー譚ですよね。拓也くんは、このお話をどう解釈しましたか。
    • 山中「一番最初、冒頭を読んだ時点で『頭から常識を変えてくるんや』って思ったんですよ。要は、有無を言わさず桃太郎が正義っていう常識が日本にはあるわけですけど、昔話から染みついてきたその常識を最初からひっくり返してくるのが面白いなと思って。『俺は正義の側だ』と思って生きている主人公が、急に『あなたは鬼の血筋なんだよ』と言われるわけですけど、でもそれは表面上の話であって。その根底にあるのは、本当に貫くべきなのは自分の中の正義であり、自分が信じるものを手放さない強さを持っているかどうかっていうことなんですよね。 そういう根本的な部分を楽曲としても描けたらいいなっていうのが大事な部分でした。で、自分の正義をいかに貫けるのかっていうのは俺の人生においても当てはまる部分だったので。人は理想像を描きながら生きていくものだと思うんですけど、それを追い求めるが故に、本来の自分のよさや、その瞬間にしか学べないことをザーッと流してしまうこともあるじゃないですか。ただ鎧を着て『これが自分の理想的な姿です』って言ってしまうことが往々にしてある。俺自身も、理想とするヴォーカリスト像を追い求めている中で『鎧を着てるだけやったわ、これ脱がなあかんな』っていうことを何度もやってきたんですよ。 理想を追い求めることも大事ですけど、だからって自分の育った環境や周囲の友達、家族の存在から目を背けてしまっては、自分の生きてきた過程を否定するだけになってしまう。そうじゃなくて、何より自分だけの人生を最大限表現することが何より自分らしい理想像であって、そうしないと自分の人生に失礼やなって思うようになったんですよね。そこで気づけた自分のヴォーカリスト像とアニメの世界とが合致したので、書きやすい楽曲ではありましたね」
    • マインド的な意味でも、『AlterGeist0000』期の先頭に作った楽曲というのが腑に落ちる話ですね。裸の自分に還っていくっていう。
    • 山中「確かにそうですね」
    • 「桃太郎の襲撃によって、初めて自分が鬼だと気づく主人公」という導入のお話ですけど、鬼も、自分は鬼であると思って生きているわけではなく、ただ自分として生きているだけじゃないですか。それを「あなたは誰かにとっての悪者なんですよ」と言われたら、人生そのものが激揺れすると思うんですよね。そこからどう立ち上がって生きていくのかというお話だから、単なるダークヒーロー譚に止まらず、善悪といった二元論に対するクエスチョンであり、個人という概念に対するメッセージでもあるというふうに『桃源暗鬼』を解釈したんですよね。で、それは“OVERNIGHT”で歌われていることでもあると思って。
    • 山中「そういうことがあるのは自分だけじゃないやろうなっていう気持ちもあったんですよ。小さい頃のピュアな自分を維持して、それだけで心地よい人生を送れている人なんて数えられるくらいしかいないんちゃうかなって思うので。誰しもが自分の理想とかけ離れたところで生きていると思うし、幼い頃に抱いていた何かを忘れてしまうくらい淀んでしまう人もいるかもしれないし。だから、自分を貫く生き方っていうのは凄く難しい。その中で何を目指していくのかが人生なんやっていうのを歌に込めたつもりです」
    • 何が悪か何が正義かっていうところを超えて、それぞれの夢を抱いて生きていくっていう歌になっているのがいいなと思うんですよね。<未完成な方が/誰かを思いやれるんだって>という歌詞が強く刺さるんですけど、これはどういうところから出てきた言葉なんですか。
    • 山中「その歌詞は、俺が常々思っていることをそのまま書いたもので。完璧であることより、完璧になろうと思って足掻いている人のほうがカッコよくない?って思うんですよ。完璧なんて一生手に入らないもので、その葛藤と未完成な自分と闘っている人のほうが魅力的やんって思うんです。バリバリ自信あるヤツと、自信もあるけどたまに弱音が出るヤツやったら、俺は弱音出るヤツのほうが好きで。 で、なぜ弱音が出るのかと言ったら、痛みと葛藤を知っているからじゃないですか。痛みを知っているから理想の自分を描いて生きていくんやと思うし、怖さを払拭するために必死に頑張っていける。逆に言えば、そういう隙間がどこかにないと、そもそも夢を見たり理想を追い求めたりすることもないんですよね。それをそのまま書いた歌なんやと思います。それに、人それぞれスタートラインは選べないじゃないですか。どういう身体で生まれてどういう精神の人間になるのかは5歳までの環境で決まってしまうと言われてますし。 それでもその先をどう生きるかで新しい自分を形成することはできるし、その中で自分の使命が見えてくるもんやと思うんです。そういう意味での人生の残酷さと現実を歌いつつ、夢と優しさを伝えられるものにしたいとは思ってました」
    • 戦争は止まず、実存的な危機が目の前まで迫り、物価も上がり。どこまで行っても人生のスタートラインに影響されて生きているということと世界の現実を考えると、諦める理由のほうが多い世の中になっていると思うんです。それでも生きていくに値する理由を見つけるには、やっぱり自分で頑張ることが必要で。そういうことを伝える歌だと思うし、自分の人生は自分のものなんだっていう根本的な部分に命の置きどころがあるんだっていうメッセージがこの曲の核だと思うんですよね。夢を見て生きていけよっていうだけの歌ではないところに、オーラルらしい鋭さがある。
    • 山中「嬉しいです。いろんなファンの声だったり後輩の声だったりを聞いていても、『この子は現実を受け入れられないんやな。でも理想像はあるから現実を放り投げているんやな』って思うことがあるんですよ。で、理想を放り投げたあげく『どうしてこうなっちゃうんでしょう』っていう質問の仕方をする人が多いなって思うんです。その中で俺が考えるのは……『綺麗事』と言われる言葉の遣い方なんですよね。たとえば綺麗事に対して『そんなの綺麗事ですやん』って言う人が多いのは、それが純粋な理想だからこそ皮肉のように思ってしまうからじゃないですか」
    • 人間、最大限の理想を諦めることによって自己防衛するところがありますよね。
    • 山中「そう、綺麗事に対しての皮肉を言うことによって自分を納得させることがある。だからこそ、綺麗事とされる言葉を真っ直ぐに伝えるには、人それぞれの現実を慮ることが大事なんですよね。自分自身も『もう諦めよう』って思うことがあったし、世の中はこういうもんやっていうふうに自分を納得させることもあった。 でも、その現実を知った上でどうするのかを考えないと一生アップデートせえへんままやでっていうのは今改めて思うことなんですよね。そういう視点は歌の中に入っていると思うし、歌詞の書き方としても、『なんて希望の湧く歌なんだろう』っていうだけで終わるのはリアルじゃないんですよね、今のこの世界においては」
    • 本当にそうですよね。綺麗事っていうのは花火みたいに打ち上げるものじゃなくて、今の現実をつぶさに見て壁を打ち破っていくためのヒントなんだろうなって思うし。そういう意味で言うと、オーラルを聴いている人への想像力が広がったとか、誰かの生活を想う目線が強くなったとか、そういうところもあるんですか。
    • 山中「いや、俺も同じやなっていう視点が強まった感じですね。俺も綺麗事を拒んでいる時期があったなあって思うから。……俺、常に対極のものを置いて伝えることがほんまに大事やなって思ったことがあって。超カラッとした天気の下でめっちゃ明るいBGMを流しながら『No Rain, No Rainbowだから!』って言った人の言葉がまったく響かなかったことがあったんですよ」
    • はい(笑)。
    • 山中「でも、その後にバチバチにラップしてめちゃくちゃタフな人生を歌った人が『No Rain, No Rainbowだ!』って言った時は、バチッと響いたんです。それはけっこう昔の体験なんですけど、やっぱり、雨を突きつけた上で虹を歌う人のことは信頼できるわって思って。だから10-FEETのTAKUMAさんの歌は信頼できるんやって思えたことに繋がったんですけど、強いだけじゃないとか、明るいだけじゃないとか、やっぱりそれが大事なんやなって再認識したんですよね。 どうしても自分の理想像をひとつに絞って『俺はこういう人間です』って話してしまいがちですけど、その奥にあるいろんな感情、様々な自分の姿を丁寧に見つめることが大切なんですよね。なので、世間や誰かに対する『いやいや、そんなん言われましても』っていう自分を消し去るんじゃなくて、それを常に置いておくことが俺にとって大事なんですよ。曲がった自分がいなくなってしまうと、綺麗事を綺麗事として諦めてしまう人への想像力がなくなってしまうから。そもそも皮肉っぽい性格やったし、何事もピュアに受け取れる人間ではなかったですし。そういう過程もすべて持った上で曲を書くのが大事なことやなって思ってます。いろんな人と同じように生きている人間としてね」
    • 世の中の現実を見た上で、そしてその現実に追いやられる人を想った上で歌を書き続けるTHE ORAL CIGARETTESはダークヒーローだと思いますか。突飛な質問に聞こえるかもしれないですけど。
    • 山中「うーん………それは単にサウンドのことやん!って思ってます(笑)。“OVERNIGHT”もそうですけど、たとえば曲の中に気持ち悪い音や気持ち悪いフレーズを残したりしているのって、人間が表現する上で当たり前のことやと思っているからなんですよね。歪さや気持ち悪さを抱えて生きているのが人間やから。 そういう意味では、気持ち悪いとされる音の中にも優しさや怒りが入っているし、人間の持っている感情を散りばめている結果がこの音楽なんです。人間の感情を音楽に表して、単に綺麗なものになるはずがないんですよ。綺麗なだけでよければAIでも作れるし、綺麗なだけの曲を作ってと言われたら、感情を無にして作ることもできる。でも俺はそうしたくないし、感情を込めて作っている以上、音楽がひとつのパターンを採ることなんてありえないんですよね。 なので、俺らの音楽が持っている表面的なダークさ、ダークヒーロー感っていうものは、俺らの感情を素直に音楽化した結果でしかないと思ってます。奥を辿っていけば、人間としての根本は一緒やでっていう気持ちでいますね」
    • ガジガジした歪みが印象的な楽曲ですけど、あくまでその気持ち悪さとダークネスを突破していくための歌になっている理由がよくわかりました。闇を突破するために自分を闇に染める必要はないんだよっていう。
    • 山中「そう言ってもらえて嬉しいです。実際、ダークヒーロー論が流行ってますけど、それは時代的なものもあるとは思いつつ、そもそもルフィよりゾロが好きとか、悟空よりベジータが好きとか、割とありません? それが何かって、『ルフィとか悟空みたいな真っ直ぐな人間、おるはずないやん!』ってみんなが気づき始めてるんやと思うんですよ(笑)。もちろん時代によって変わってくる価値観やとは思うんですけど、世の中や時代が作っている主人公像と自分がかけ離れ過ぎていると、その主人公像は単に空想のものになっちゃうじゃないですか。 で、それはステージに立つ人間とファンっていう関係性の中でも生まれていると思っていて。俺も、ステージに立っている人と自分がかけ離れ過ぎていて共感できなかった経験が何回もあるんですよね。でも、隣にいる人と自分が近いかもって思えた瞬間に共感が生まれることはたくさんあるわけです。だからこそ現実を見て歌うことが大事やと思うし、自分の人生の主人公は自分なんやから好きにやったらええやんって言うのは簡単ですけど、それより先に現実を見るほうが大事なんじゃないかなって思いますね。自分とかけ離れた何かを理想とするより、自分の現実を受け入れた上で、恐れや不安を持ちつつ踏み出してから見えてくる自分像のほうが、本当に理想的な主人公の姿なんちゃうか?っていうのが俺の思うことですね。だからこそ、<I’m afraid>という言葉を大事に歌いました」
    • 凄く伝わりました。夏が終わった頃から「ALL MY LIFE TOUR 2025」と銘打った対バンツアーが始まりますが、昨年の「PARASITE DEJAVU 2024」に出演した盟友達との共演が続きます。最後に、このツアーに対する意気込みを話していただけますか。
    • 山中「去年のパラデジャ以降の休止期間から今に至るまで、このツアーに出てもらうバンド達に助けてきてもらったんですよ。そこに対する感謝を表現したいっていうのが大きくあって。あとは単純に、パラデジャの2日目を自分達が締めくくれなかったから、あそこにあった空気感、あそこに出てくれたバンドと俺らの空気感をしっかり伝え切れなかったんじゃないかなっていうのが心残りだったんですよね。でも改めてパラデジャに出てくれたバンドを呼んでイベントをやっても、あそこで起きた事故のことを想起してしまう人がいるかもしれないなと思って。 だからまずは2マンで回って、お客さんや仲間のバンドとの密な関係性を表現していきたいなと思ったんですよね。出演してくれるバンドにも自分で電話して、気持ちを伝えた上で対バンをオファーして。ライヴの日程が詰まっていないのは、実はそういうことなんですよ。パラデジャに出てくれたバンドの予定を空けてもらって、1バンドでも断られたらこの対バンツアーはやめとこっていう気持ちやったんで。『ALL MY LIFE』と名づけたのも、自分の人生観が変わってきた中で、やっぱり俺の人生を振り返った時には仲間と呼べる人達の存在があったっていうことなんです。 それを何より大事やと思えた自分に自分でビックリするような状態に入ってるんですよ。なので、『PARASITE DEJAVU 2024』からの流れも踏まえて、俺の人生を形作ってくれたのはこの人達ですっていうのを表現するツアーにしたいと思います」
    • TEXT:矢島大地 (MUSICA)

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