- 最高傑作のリリース、おめでとうございます。
- 山中拓也「おっ! ありがとうございます!」
- 現在進行形のロックバンドとして鳴らすべきサウンドを徹底的に磨き上げた跡が見えるし、実際、ビートや低音の鳴りが曲の彩りに直結していると思います。そして、初めてと言ってもいいくらい、THE ORAL CIGARETTESが一切背伸びをせず、ここまで培ってきたものだけをドカンと鳴らしているアルバムでもある。二度目のデビューアルバムと言ってもいいくらい、オーラルの正体を見たような清々しさを感じる作品なんですが、拓也くんはどんな手応えを感じているアルバムですか。
- 山中「二度目のデビューアルバムという表現が今しっくりきていて。このアルバムに込めたものを中心にして今後の活動を展開したいと思うくらい、すべてにおいてこれからのオーラルをイメージして作ったのが『AlterGeist0000』なんですよね。 あと、あきらと話している中で、今の俺らのマインドで『FIXION』をもう一度作ろうよっていうテーマが出てきていたので。自分らの代表作と言われるアルバムを塗り替えようっていう意気込みが強かったです。今後の活動の根幹という意味でも、オーラルの新しい代表作という意味でも、未来に向けて大きな役割を果たしてくれるであろうアルバムやと思ってますね」
- 具体的には、今後のオーラルをどう展望したことが今作に繋がったんですか。
- 山中「10年以上やってきた上で、改めて原点を見直したという感じですかね。ただ、単なる原点回帰とは違って。言い方が難しいんですけど……『The BKW Show!!』や『FIXION』を作っていた当時は、そこまで音楽ラヴァーじゃなかった気がするんですよ(笑)」
- 何ラヴァーだったんですか(笑)。
- 山中「音楽ラヴァーというより、エンターテイナーやったと思います。インディーズの頃に『奈良の4人組によるエンターテインメント』という紹介文を書いていたくらいですし、当時の俺らは、音楽以外のエンターテインメントを表現する可能性もあったんですよ。でも10年以上活動してきた中で、特に『SUCK MY WORLD』を作った辺りから、俺の音楽との向き合い方が変わってきて。あの作品を作るには当時の俺らが持っていないものを血肉にすることが必要やったんで、海外のポップミュージックの流れを掴んだり、その音楽の歴史や背景を改めて学んだりすることが必然的に増えたんです。 そういう道筋を辿ったことで、音作りに関してもイチから考え直そうと思ったし、機材のことも一つひとつ学ぼうと思うようになったんですよね。自分の頭の中で流れている音楽を理想通りにお届けするにはどうしたらいいのか?っていうのを、より具体的に詰めるようになったというか。なので今後のオーラルをどう展望したかというと、『音楽ラヴァー』という原点から新たに始めたっていう感じかもしれない」
- 過去の拓也くんが音楽ラヴァーじゃなかったのだとしたら、どうしてバンドをやろうと思ったんでしょうね。改めて伺いたいです。
- 山中「人との関わりという部分で、バンドを通しての出会いが一番面白かったからやと思います。銀行からの内定を蹴ってバンドを選んだ時も、俺はどんなふうに人との繋がりを作って生きたいのかを考えた上でのことだったんですよ。バンドを通して人と出会うほうが自分の人間性がアップデートされていくと思ったし、ライヴハウスで出会った人と話している時が一番ワクワクすると思ったし。バンドをやりながら生きていくほうが日常を豊かにできると思ってたんですよね。 そこは昔も今も変わらず、というか、人と人っていう部分がどんどん太い幹になってきた感覚があって。そこがバンドを続けてきた理由ですかね」
- その上で『SUCK MY WORLD』でポップミュージックの理論的な部分を詰めていったことにより、ロックバンドとしてのアップデートにも繋がったということですよね。
- 山中「そうですね。それと同時に、コロナ禍中の活動が最も大きい要因やったと思っていて。ライヴがなかなかできない期間だったからこそ、改めて音楽的な面を磨いていく時間にできたんですよね。たとえばコロナ禍の最中に辻村有記という人間と出会って、一緒にJOGOという楽曲制作プロジェクトを立ち上げましたけど、そのプロジェクトで音楽を作っていく中で自分はまだまだ音楽のことを知らないと思い知らされて。 彼と音楽を作る中で吸収できた技術がたくさんあったんです。あとは、海外のアーティストとの交流が増えたことも大きくて。最初はBAUWZっていうアーティストから連絡が来て、DMで『きみの音楽イケてるね』って言ってくれたんですよ。KID BRUNSWICKっていう俺がめちゃくちゃカッコいいと思ってるアーティストからもメッセージが来たりとか、俺らの音楽が海外の人にも刺さってるという喜びがあったんですよね。そういう経緯もあり、ストリーミングサービスで海外の人に聴かれても『カッコいい』と思ってもらえる音楽を作りたいと考えるようになったんですよ。なので、現行のロックとか、ヒップホップがメインストリームになって以降のミクスチャー感とか、そういう部分を咀嚼しながらサウンドを磨くようになっていきましたね」
- より広い世界で音楽を捉えて、アップデートできたと。
- 山中「はい。あとは、やっぱり後輩の存在が大きかったですね。後輩が『拓也くん、拓也くん』って寄ってきてくれるようになって、そこで自分達のキャリアを実感することもあったんですよ。そうか、10年以上やってきたんやなって。そうやって後輩バンドと触れ合う中で、次のタームの音楽に行ってるなぁとか、こんなに自由に音楽と向き合ってるんやとか、なんなら俺より志高く音楽を突き詰めてるなあとか、刺激をもらうことが増えたんですよね。 そういう刺激的な感覚を覚えた一番最初の存在はCVLTEのavielやったんですけど、あいつもう、音楽に対するオタクじゃないですか(笑)。で、オタクってめちゃくちゃ信頼できると思ったんですよ。一つひとつの音に対する突き詰め方が凄いし、突き詰めたら突き詰めただけクオリティに表れるわけですから。そういうふうに音楽に関するやりとりを後輩とするようになって、それがまた俺の創作意欲に繋がったんですよね。PaleduskのDAIDAIがBRING ME THE HORIZONと一緒に曲を作り始めたのもそうやし、Age Factoryのナオティー(西口直人)も根っからの音楽オタクやし。同世代や先輩との繋がりだけじゃなくて、後輩に感化されたことも音楽的なブラッシュアップに繋がったと思います」
- きっちり食らわせる音を作らないと後輩に示しがつかねえなっていうことですよね。
- 山中「それはありましたね。エグいくらい突き詰めないと、下の世代に示しがつかない。徹底的にやらないと恥ずかしいなと思ってました」
- 後輩に対する視座を話してもらいましたが、それはつまり、後続のバンド道や、ロックシーンの未来を展望したということだと思うんですね。前回のインタヴューでも「ロックシーンの真ん中に立って、シーンを推し進める存在でいたい」と話していただきましたが、そういったマインド面はどんなふうに今作に繫がったと思いますか。
- 山中「自分達中心の考えがなくなったのが一番デカい気がしていて。自分達が幸せになるのはもちろん、自分達の周囲にいる人と一緒に幸せになりたいと思うようになったんですよね。デビュー当時の自分は凄くツンツンしてたし、他を蹴落としてでも這い上がってやると思ってたんですよ。 でも年齢を重ねて、作品を作り続けて、ちゃんと評価されるようになって。ロック以外のものでも、いいものは純粋にいいと言えるようになってきて。いろんな人、いろんな音楽と素直に一緒にいられるようになったんですよね。そうなった時に、音楽シーン全体のことまでは手が届かへんかもしれんけど、自分の手の届く範囲までは幸せで満たしたいなと思うようになったんですよ。 カッコいい後輩のバンド、同世代のバンド、俺らが世話になってきた先輩のバンドと手を組んで、ロックはこんなにカッコいいと世の中に知らしめたい。そうやって俺らが好きなロックの土壌を豊かにしていくことが、俺らの未来に繋がると思うので」
- シーンの土壌が豊かになることが、オーラルが末長く活動していくための足場になっていくわけですもんね。
- 山中「そうそう。で、そういう考え方に変化したことっていうのは、俺の人生観が変わったと言っても過言じゃないと思うんですよね」
- この『AlterGeist0000』は、とても誠実なアルバムだと思うんですよ。“Bitch!!”や“DIKIDANDAN”、“DUNK”といったヘヴィな楽曲で我々が闘うべきものを洗いざらい歌い、その上で“OD”では拓也くん自身の過去や闇と対峙して人生観の変化を綴っている。そうやって「なぜ幸福を求めるのか」「幸福になるためには何と向き合わなければならないのか」という部分をきっちり歌にして、それでようやく“See you again”に辿り着く。 つまり、拓也くんにとっての幸せや愛というものを真っ向から歌うためのアルバムだと思ったんですが、人生観の変化というのは、そういう部分に表れているんですか。
- 山中「多くの人が求めるような地位とか、名誉とか、誰かに優っていたいとか、そういう表面上の幸福はもう要らないって思うようになったんですよ。本当の意味での幸福とは何なのかを考え始めたのがこのアルバムのスタートやったし、それによって自ずと人生を振り返るような歌になっていったんですよね。あの時の出会いが俺にこんなものをくれたんやな、とか。それこそ、俺らを育ててくれたのは間違いなくロックシーンなんやなって実感したのもそういうことなんですよ。俺らを形作ってくれたあらゆる人、シーン、仲間があることが真の幸福なんやと再認識したし、その場所をもっと豊かにしていくことが俺らの役目やと思ったんです。 そこに対して何を歌っていきたいんやろう?って考えた時に、やっぱり嘘はつけなかったんですよね。ありのままの俺でやりたい曲を全部ぶつけることが必要やったし、だからこそ、好きやなって思う人と一緒に曲を作ることに何の抵抗もなかったんですよ。DREAMLANDにおいても大きな存在であるthe McFaddinのRyoseiとは絶対に一緒にやりたかったし、オーラルがまだHigher Groundという前身バンドやった頃に可愛がってくれたNever Looking Backというバンドがいて、そのヴォーカルであるにーやん(Kazuya)とも一緒に曲を作りたいと思ったし。Masatoくんもそうですけど、自分の人生において大切やと思える人と共に音楽をやっていきたいっていう気持ちの表れがこの作品なんです。今後どう歩んでいく道と同時に、自分の人生の総括というか。こそ“OD”で歌っているのもそういうことなんですけど」
- “OD”、凄いですよね。闇とか痛みとかをガソリンにしていた過去の自分を正直に曝け出していることにもビックリするし、以前のインタヴューで「やっぱり愛がすべてだったんです」と言ってくれたような自分に変わるまでの道のりが赤裸々な歌になっていると思うんです。ここまで歌わないとリアルではなかったですか。
- 山中「いろんなインタヴューとかで『自分の行動のすべてが愛を起点に出てくるようになった』と話す中で……この前の取材で『拓也くん、人ってそんなすぐに変わりますかね?』って言われたんですけど(笑)。頭の隅っこにいるトゲトゲしかった頃の自分が今の俺を見たら、どんな葛藤が生まれるんやろう?っていうのは俺も以前から思ってて。『愛がすべてや』とは言っても、過去の自分と今との間に、まだ何か引っかかるものがあるなって感じてたんですよ。それを洗いざらい解決するために、過去の自分が今の俺をどう見ているのかを歌にする必要があったんですよね」
- この曲は<愛だ恋だとか本当うっせぇな/死ぬまで俺はお前苦しめ><この歌を歌うなら/俺を受け入れたことになるからな>という言葉で終わっていくわけですが、これは過去の自分から今の自分への言葉ですよね。“OD”を書き上げてみて、過去の自分とケリをつけられたんですか。
- 山中「解決するというよりも、過去も丸ごと受け入れればいいんやと思ったんですよね。むしろ、刺々しかった頃の自分を俺の中から省くことのほうがフェイクになってしまう気がしたので。この曲を書く前はどこかモヤモヤするところがありましたけど、昔の自分が頭の中にいることも含めて今の自分なので。もしかしたら昔の自分がまた出てくることがあるかもしれないけど、それも含めて自分を愛してあげられたらいいなって思えました」
- 今おっしゃったことは、このアルバムの主題のひとつですよね。代替可能な自分という意味合いがある『AlterGeist0000』というタイトルは、翻って、自分とは何なのかということに向き合い、自分が何を求めて生きているのかを見つけ出すんだというメッセージのように思うから。
- 山中「うん、そうですね」
- それも含めて“Bitch!!”について伺いたいんですが、外的な賞賛や数字、名誉といったものを求めるがあまり人を中傷するような人間に対する歌のように思いましたし、自分の幸福を自分の内側に見つけられない人への猛毒が綴られているようにも感じました。この歌はどういうところから出てきたのかを教えていただけますか。
- 山中「言葉選びが難しい歌ではありましたね。そもそも“Bitch!!”っていうタイトルにすることでリード曲にできへんっていう事情もありましたし。で、そのタイトルにするからこそ、浅い言葉で何かを攻撃するような歌には受け取られたくなかったですし。でも“Bitch!!”くらいの言葉じゃないと、今の気持ちは表現できないと思ったんですよ。“Bitch!!”とは言っても女性蔑視とはまったく違う歌ですし、ちゃんと歌に込めたものを説明できると思ったので。やっぱり、いいねの数がどうとか、何でもかんでも数取り合戦になって善悪がわからなくなってしまっている社会の状況に対して、それはクソやと思うっていうことをハッキリ言いたかったんですよ。 それを表す強い言葉が“Bitch!!”やったっていうことなんですよね。……以前、松田翔太くんがニュースキャスターをやっている番組を観たんですけど、そこで、電車の痴漢とかを撮って犯人を吊るし上げるYouTuberを取り上げていたんですね。そのYouTuberは『俺は日本を救ってるんですよ』みたいなことを言ってたんですけど、それに対して俺は、松田翔太くんとまったく同じ意見やったんですよ。いやいや、痴漢が起こった時にお前も『よっしゃ』って思ってるやろって。それって善悪の判断がついてなくない?みたいな。そういう気持ちが自分の中にあったし、やったことを晒しあげて私刑で裁くっていうのも気持ち悪かったし。 で、それは世界中で起こっていることじゃないですか。人を吊るし上げて、自分の快感のために半殺しにしてしまう風潮がある。でね、自分が生きやすい心地のいい世界を踏まえた上で、そういう風潮はおかしいっていうのを言っておきたかったんですよ。数字を取ることで生活できている人もいるかもしれないし、全員に刺さって欲しいと思うわけじゃないですし。でも、俺はこう思うよっていうのをハッキリと吠えるのがロックの本質のひとつやと思うし、自分の思うことをハッキリと言える世界でもあって欲しいんです。自分だけが思っていることでも、俺はこう思うって言えるように。それを強いサウンドで表現しようと思ってました」
- “Bitch!!”の音楽性としては、“Red Criminal”以降にオーラルの得意技になってきたポストハードコアがベースになっています。でもこの曲が面白いのは、拓也くんのルーツであるヴィジュアル系のメロディ運びや艶のある音のフックが同時に感じられることで。オーラルの音楽的なキャラクターがストレートに出てきているのも、今まで話してくれたことを表している気がして。ルーツにも嘘をつかないっていう。
- 山中「そこはもう、諦めた感覚なんですよ。たとえばの話、本当にいいものを作ろうと思ってSiMとかcoldrainみたいな曲を書いたとしても、その曲を俺が歌った瞬間にフェイクになると思っていて。ああいう曲を書きたいと思っても、その通りにはならない。何故なら、音楽的なルーツが違うから。真似してもフェイクになるだけやし、心から愛せる曲を作るためには、俺の手札にあるものを思い切り使わんとあかんなって思ったんですよね。そういう意味での諦めというか、手元にあるものをちゃんと認識してメロディもサウンドも作っていった感覚があります」
- 最初に「オーラルの正体を見た」という表現をしたんですけど、きっと拓也くん自身が等身大で作れたアルバムだから、そう感じたんだろうなと思いました。
- 山中「うん、そういう感覚がありましたね。背伸びしてるなって感じた瞬間に、そこを削っていく感じやったんで。『こういうのやりたい』っていうだけで外から借りてくるんじゃ、自分の今までの人生を捨てた感覚になってしまうというか。何年後かに聴いた時、背伸びしてたなあって思いたくないじゃないですか。だからこそ自分のルーツにも嘘をつかず、手札の中からベストを切っていくことが大事でした。 で、自分でしかないものを作ることがむしろ、誰にも似ていない音楽に直結するんやろうなって。そう考えて取り組んだアルバムでしたね。『FIXION2』を作ろうと言って始まったアルバムですけど、『FIXION』と圧倒的に違うのはそこやと思うんですよ。この10年で自分への理解度が深まったこと。そして、俺らの音楽を支持してくれるお客さんとの信頼度が揺るがないものになったこと。そこが大きいと思う。人にウケるためにどうこうっていうことを考えるまでもなく、今やりたいことを真っ直ぐにやり切れば自然と自分6、お客さん4くらいになっちゃうんですよね。 正直、『SUCK MY WORLD』の時はお客さんのことをちょっとも考えてなかったんですけど。でも今は、シーンのこと、ファンの人生のことも全部、俺らの幸せのために必要不可欠なので」
- 『SUCK MY WORLD』の時は、もうロックはダサいですよねっていう気持ちがあった気がするんですよ。だけど今は、カッコいいロックシーンじゃないのだとしたら自分達で変えましょうっていう気持ちでいるわけですよね。
- 山中「やっぱりロックはカウンターカルチャーなんやなって、今改めて実感してるんですよ。コロナ禍の数年で、ロックがロックたる姿をどんどん失っていったわけじゃないですか。その中にあって自分達が何をすべきか、凄く考えたのが大きくて。ヒップホップやJ-POP、チルな音楽が求められるようになっていっていく数年を経たからこそ、元々カウンターカルチャーとしての性質を持っているロックが盛り上がらないと。俺自身、そういう逆張りみたいな性格が強いですから(笑)。盛り上がってるもんがあるなら、倒しに行く。そういう気持ちでいますね」
- 辻村さん、Kamuiさんをはじめ、好きな人と一緒に好きなことをやった経験も今作における肝になっていると思いますし、おそらく“BUG”がなければ“DIKIDANDAN”もできていない気がするんですね。ロックの土壌を耕すためには外界に対して開いておくことも大事だ、みたいな気持ちがあったんですか。
- 山中「逆に、閉じたんやと思うんですよ。外のことを見過ぎても、誰と組んだらええかわからへんっていう感じになってしまうじゃないですか。好きなものが共通する好きなヤツらと一緒に生きて行ければええわっていうふうになったのが今なんですよね。ネームバリューとか肩書きとか関係なく、俺がカッコいいと思える人とだけ握手して生きていきたい。 そういう気持ちで人と一緒に音楽を作っていければ、曲ができた時の幸福感が段違いなんですよね。出会うべき人には出会うし、好きなものは好きやっていう素直さを持っていれば、それこそが幸せに繋がるんじゃないんかなって思いますね。たとえば“愁”なんて、俺らのファン以外に聴かせたところで何のことかわからん曲やと思うんですよ(笑)」
- そんなことないでしょ(笑)。
- 山中「まあ、俺的には明確にファンだけのことを考えて書いた曲なので。で、それがファンに伝わった結果、広く伝搬したら嬉しいですけどね。でも、まずは自分達の周囲の人に刺したいっていう気持ちで作った曲ばっかりやと思います」
- それこそ“DIKIDANDAN”は、『FIXION』当時に「4つ打ちロック」とひと括りにされていたビート感の曲ですよね。ただ、この曲の肝は4音がひと塊になって爆走していくアンサンブルだと思っていて。全部の楽器がまとまることでひとつのリフになっていることが今のオーラルを表していると思ったんですけど、この曲はどんなイメージで作っていったのかを教えてもらえますか。
- 山中「これはシゲと一緒に詰めていった曲で。作業場にシゲに来てもらって、構成から何から濃密にやり取りしましたね。こんなにシゲと濃密にやったのは初めてちゃうかな。最初の最初は、サビって何?みたいなところから始まったんですよ。曲の中で何をサビというのか、みたいなところを試したかったというか。曲構成を考えた段階では<後悔を捨て/一生を耐え抜け>っていうところがサビやと思ってたんですけど」
- そこがBだと思ってた。じゃあ<DIKIDANDAN>のセクションは?
- 山中「<DIKIDANDAN>は間奏やったんですよ(笑)。構成が変わったんじゃなくて、構成の中でそう位置づけてたんですよ。間奏でみんなで歌うのが面白いなっていうのと、敢えて洋楽の感じを踏まえて全然キャッチーじゃないBメロみたいなサビ作ったろっていうのと。そういうアイディアから構成していった曲なんです」
- 面白い(笑)。つまり、ABサビ、みたいな形式を取っ払った時にどんな曲になるのか?っていう実験的な取り組みをしてみたかったんだ。
- 山中「そうそう。で、最終的な調整で、やっぱりお客さんがわかりやすく歌える構成にしたほうがいいよねっていうことで<DIKIDANDAN>までの間に言葉を入れて、<DIKIDANDAN>がフックっぽく聴こえるようにしたんですけど。そもそも<DIKIDANDAN>っていうのも、シゲが間奏にギターソロを入れてくれた時に、ごめんやけどメロ入れてみていい?って言ってメロディを挟んだんですよ。それが一般的に言うフックっぽくなったので。ふたりで作ってなかったら、こういう曲にならなかったんじゃないですかね」
- 結果、全セクションがサビのように聴こえる強い曲になってますね。
- 山中「ギターソロのところにメロを入れたり、どこがフックに聴こえるのかを試したり、いろいろやりましたけど、そこで指針になったのはやっぱりライヴの光景を想像することやったんですよ。ここでギターが入ったら盛り上がるやろうな、とか。あくまでライヴやっていう、今の俺らのモードがめちゃくちゃ出ている曲になったと思います。 サビがどこかわからん曲を作ってみようっていうのも、Hot Milkの曲を聴いていた時に『サビよりもイントロのほうが印象に残るな。俺らにもこういう曲あったらいいな』って思ったからなんですよ。音楽ラヴァーになったという話もしましたけど、音を使って遊べた感覚があるし、ディグったものを自分に落とし込んで消化したらどうなるんやろう?っていう自由な遊び心をいろんな曲に散りばめられたんですよね。ちゃんと音楽と遊べた実感があります」
- もちろん精魂込めて作られたアルバムなのはわかってるんですけど、それ以上に純粋に楽しく聴ける作品でもあって。そこがいいなって思う。
- 山中「俺も、作っていて楽しかったですね。作って疲れたなぁっていうより、ああ楽しかった!っていうのが強い。それが音に入っているんやったら、よかったなって思います」
- 歌詞で言うと、<崩壊のスケール/超えるのさ>というシンプルな言葉がグッと刺さってきます。“Bitch!!”とも繋がる話ですけど、我々に巣食う病と痛みを超える希望を見せていくんだという意志を表明している歌のように思ったんですけど、拓也くん的にはどんな気持ちを込めたものなんですか。
- 山中「今言われた通りのことやと思います。『音楽で闘う』みたいなのって、よくよく考えると変な感じじゃないですか。ジャンル同士で闘う、みたいなのもありますけど、でも、どんなジャンルも根っこを考えたら精神性は一緒やと思うんですよね。特にロックとヒップホップは近いところにあるよなって思うんですけど、音の使い方がちがうだけで、自分の人生を表現する音楽であるのは共通してるんですよ。YUNGBLUDみたいに、トラックを使ってはいるけどジャンルとしてはロックなのかヒップホップなのかがよくわからないアーティストもいるじゃないですか。 でも、彼の人生観が乗っかることによってあの音楽がロックになるわけです。結局はマインドの部分で決定づけられるのがロックやと思うし、そこは今回の曲作りでも凄く大事なところやったんですよ。なので“DIKIDANDAN”に限らず、どの曲にも自分の人生観を込めていて。<Leave the city>っていうのも、『もう東京はダルいっす、離れます』っていうだけのことなんですけど、俺の人生をそのまま歌うことが俺の人生観の表現に繋がるっていうのが大事なところなんですよね。人生と音楽は連動してるんやなって、改めて痛感しました。俺の人生をそのまま表現して、それに連動して音楽が生まれるっていうだけ。それこそがピュアな音楽やなって思います」
- 失礼な質問ですけど、人生と音楽が連動する感覚は初めてのことですか。
- 山中「初めてです。これまでは人生と音楽が割と乖離してたので。自分の価値観が合う・合わないっていう部分を誤魔化さなくなったというか。言葉にしたらシンプルですけど、それが何より大事やったんですよね。持てるものしか持てませんっていう諦めがあることによって、価値観が合うもの、好きなものをシンプルに選べるようになったというか。結局、何もかもを欲しがることによって、人は自分の価値観を他者に寄せてしまうんですよ。欲があるからこそ合わせに行っちゃうというか。それをしなくなった瞬間に、本当に素直な自分の形が見えてきたんやと思います」
- わかりました。では、ひとつずつ話を伺いたい曲がいくつかあるので、具体的に訊いていきます。まずは“SODA”についてなんですが、とても蒼いサウンドの中で、自分のピュアネスを守るための生き方が歌われている曲だと思いました。凄くいい歌ですね。
- 山中「嬉しいっす。俺も歌っていてめちゃくちゃ気持ちよかった曲なので」
- この曲は、どんなところから出てきたんですか。
- 山中「個人的に新鮮な曲で、俺はトラックを切り貼りしただけなんですよ。the McFaddinのRyoseiがこの曲のデモを作ってくれたんですけど、DREAMLANDの未来について考えていることを曲にしたいなって俺が考えていた時に、ちょうどRyoseiから『一緒に曲作りませんか』って言われて。で、それからすぐに送られてきたデモを俺がエディットして、メロディをつけて、戻して。そういう作り方やったんで、曲の雰囲気はRyoseiが描いてくれたものなんですよね。『ソーダみたいな曲なんです!』ってRyoseiが言ってたので、そのまま“SODA”にしたんですけど(笑)」
- 実際、淡くて蒼い雰囲気がありますよね。
- 山中「そう、ほんまにソーダみたいやったんで(笑)。Ryoseiと一緒にDREAMLANDのこの先をイメージして作った曲やし、<僕らの夢の向こう>っていう言葉は絶対に入れたかったんですよ。これも、共作だからこその歌やと思います」
- <飾らないように/飾っていた/自分はどこかへ消えたんだ>と思わせてくれた仲間の歌なんだ。
- 山中「まさにそうです。だし、俺だけやったら絶対に出てこないトラックなんですよ。今の俺では、こういうインディー然とした曲は書けないですから。こんなに多く曲を書いてくると、このいい意味でのいなたさは出せないんです。で、その蒼さがこの曲のいいところなので、シゲに弾き直してもらう時も『あんまり綺麗にし過ぎないで欲しい』って頼みました」
- 次に“愁”について伺います。拓也くんの心の故郷を思い返しているようなメロディで、ここまでの人生を見守ってくれた人への感謝を伝えるようなバラードだと思いました。ノスタルジックな歌声が印象的な1曲なんですが、この曲は?
- 山中「オーラルのヴォーカルとして歩んできた人生を振り返った時に、改めて感謝することばっかりやなと思ったんですよね。そもそも初めはヴォーカルやるのが嫌やった人間なので、周囲の人やメンバーの存在がなかったらここまで歌い続けられなかったんですよ。バッキングだけ弾いてるギタリストが一番渋いと思ってたし、ヴォーカルなんてやりたくないと思ってた。 そんな俺が今センターで歌っていられるのは、間違いなく周囲の人のおかげで。そこに対する感謝を歌いたかったんですよね。で、『PARASITE DEJAVU 2024』の1日目のセットリストを考えていた時に、YGNT Collectiveで作った“蝋燭の私”をどうしてもやりたいと思って。でもオーラルのライヴやしなってことで最終的には抜いたんですけど、ああいうタイプの曲が欲しいと思っちゃったんですよ。これまでのオーラルのバラードで言うと“エイミー”みたいなアップテンポ目の曲が目立ってたので、ライヴのメインを張れるロックバラードを作ろうと。 じゃあこの感謝の気持ちを大きなバラードに載せられたらいいなって思ってたんですよ。それもあって、“蝋燭の私”と同じく(山岸)竜之介と一緒に作ったのが“愁”でした。なんか、バラードを作る時の相性がめちゃくちゃいいんですよね。拓也くんの声質の一番いいところはここなので、コードもそれに合わせました!っていうレスポンスがめちゃくちゃ早い」
- 曲ごとに拓也くんの歌が様々な表情を見せているアルバムなんですが、“愁”はご自身の一番得意なところを出せた感覚がある曲なんですか。
- 山中「ありますね。迷ったは迷ったけど、オケと素直に連動してメロディが出てきた感覚がある曲なので。感謝を伝えたいと思った曲で<心配いらないよ>と歌い切れたのが自分でも嬉しかったですね」
- そして、ラストの“See you again”です。これはもう、プールサイドで気持ちよく乾杯している光景が浮かぶ曲です。
- 山中「ははははははは。西海岸の感じですよね」
- まさに。パーティーの曲だと言いたいわけじゃなくて、それくらい幸福度100%で歌える歌になってますよね。「またね」という言葉が、目の前の人に対する一番の愛になっていくところがいいなと思って。また会おうという約束が希望になるというか。
- 山中「“愁”でアルバムを終わらせてもよかったんですけど、自分の今のテンション感で言うと、それはちょっと違うなと思って。で、『PARASITE DEJAVU』の1回目に、“LOVE”でライヴを締め括ってめちゃくちゃ幸福な空気になったことを思い返したんですよ。 ライヴが終わった後にみんな笑ってて欲しいなっていうのが、今の俺の生き方にもフィットすると思ったから。なのでもう1曲作ろうと思って、そこで思い浮かんだのがNever Looking Backやったんですよ。NLBを観た後の俺、いっつもハッピーやったわと思って。すぐにーやんに電話して、一緒に曲作りたいですっていう話をしたんですよ。 そしたら、俺が全然持ってない西海岸のエッセンスをしっかり入れてくれて(笑)。これも、俺だけで作ってたら絶対にあり得ないテイストなんですよ。ここまでは絶対に振り切れないと思う」
- 確かに、拓也くん個人からは西海岸の風は感じない(笑)。
- 山中「でしょ?(笑)。でも、にーやんが『これを拓也が歌うのはめっちゃいいと思う』って言ってくれたので。完全に新境地ですけど、思い切りやりましたね。どうなるかわからへん曲でしたけど、歌っていて気持ちがいいんですよ。リハでやっても、これはライヴでやったら絶対に最高やなっていう感触があって。凄く大事な曲になっていくはずです」
- この歌で凄くいいなと思ったのが、<Love me!!/Hug me!!>と歌われているところなんです。<Love you>ではなく<Love me>であることによって、拓也くんからお客さんに向ける歌ではなく、お互いに愛情を交換する歌になるというか。拓也くん自身が愛の中にいたいと歌えたことが、何よりも幸福なことだと思うんですよね。
- 山中「もちろん俺も愛されたい気持ちを持っているし、お客さんにも、自分で<Love me!!><Hug me!!>って歌って欲しかったんですよ。愛されたいって言ってええんやで!っていうか、人を攻撃したり叩いたりするより前に『愛されたい』と言えたほうがピュアで素敵やんって思ったんですよね。ピュアであることは素晴らしいと思うし、『愛されたい』って言えたほうがお互いに気持ちがいいと思うから」
- 拓也くん自身にとっても、そういうピュアネスを見つけてこられた15年だったんですか。
- 山中「何かを見つけられたかと言ったらわからないんですけど、視界がひらけた感じは間違いなくあります。ずっと鎖で縛られているような気がしてましたけど、今はそれがない。今が一番楽しいと思えてるのは間違いなくて。これは聴いてくれるみんなにも伝えたいことで、閉塞感を感じる瞬間も大事かもしれないけど、それに苦しんで死んでしまうくらいやったら、もっと気楽に考えることも大事なんじゃない?って思うんです。そういう気持ちが、“See you again”には入ってます」
- 生きろ!って言われるより、またね!って言われたほうが生きられることもあるよね。
- 山中「本当にそうですよね。全部があって今があるわけやから、過去を否定するつもりはないんですけど。ただ、どうしてあんなに難しく考えてたんやろ?っていうこともたくさんあって。それを超えて、今やっと自分の経験を人に手渡せるようになったんやろうなって思います」
- 本当に素晴らしいアルバムでした。
- 山中「ありがとうございます」
- そして最後に。『PARASITE DEJAVU 2024』での一件も含め、多くの人がオーラルを心配して、たくさんのファンがライヴを渇望していると思います。そんな中で始まる久しぶりのツアーに向けては、どんなことを思っていますか。
- 山中「明日から頑張ろうと思って欲しくてステージに立ってるのに、その明日を奪いかねない事故が起きてしまったことがショックやったんですけど、俺らのイベントなわけですから、自分達の責任であることは間違いなくて。正直に言えば、俺らはステージで音楽を鳴らしてみんなに楽しんでもらうのが役割ですし、それが俺ら4人の限界値ではあるんですよ。ただ、俺ら4人の動きによってチームの士気を上げていくことはできる。 この現場で中途半端なことはできへんなって、現場で顔を合わせないスタッフさんにも思ってもらうことが必要やなっていうのは思いましたね。怪我をされた方々には今後も真摯に向き合っていきます。……本当に申し訳ないと思ってるんですけど、今回、また別の意味での申し訳なさも生まれてきたんですよ。パラデジャで怪我をされた方のところに直接伺った時に、むしろ俺らが励まされることが多くて。怪我をされた方が俺らの活動を心配してくれるわけですよ。 それに対して返していくのがこれからやと思うし、言葉にすると軽くなっちゃうかもしれないんですけど、申し訳なさと同時に感謝もたくさんありましたね。いろんな方に心配をかけたと思うし、活動をストップしていた間は、出演キャンセルしたフェスでいろんなバンドが俺らの曲をカヴァーしてくれたり、ファンがそこに対して感謝を伝えてくれたりっていうことがあって。改めて、俺達がロックシーンにいることを実感したんですよね。その気持ちを忘れずにライヴをやっていこうと思うし、お客さんに心配させない活動をしていけたらいいなと思ってます。 JESSEに『ライヴ復帰した時にダサくなってたら、もう誰も助けてくれねえぞ』って何度も言われてたんで(笑)。改めてヴォイトレしまくったし、さらに音楽に向き合ってきた期間やったんで。それをライヴで思い切り表現できたらいいなって思います」
TEXT:矢島大地 (MUSICA)